Domaine Raymond DUPONT-FAHN
ドメーヌ・レモン・デュポン=ファーン
ムルソー由来のボリューム感とエレガンスが見事に調和した、新世代ブルゴーニュを牽引する注目の若き生産者。
代々所有する元ムルソーの素晴らしい畑から生まれる最高のブルゴーニュ・ブランがドメーヌの看板ワイン。
生粋のヴィニュロン、レモン
1979年、ブルゴーニュに代々続くドメーヌの5代目に生まれたレモンは、幼い頃より父や祖父の傍らでワイン造りに携わってきた生粋のヴィニュロンである。ボーヌの醸造学校で学んだ彼は卒業後、各地でワインの修行を積むことを考えていたが、19歳の時に父ミシェルが大きな事故に遭い、ドメーヌは存続も危ぶまれる状態に陥ってしまった。そのため、修行に出ることよりも、父のドメーヌに参加することを決意。幸いにもその後ミシェルがワイン造りを続けられるほど回復したため、21歳でウノログの資格を取得し、2001年に自らの名を冠したドメーヌを設立した。当初はブルゴーニュ・ショーム・デ・ペリエールとオーセイ・デュレスの約5haの畑のみだったが、現在ではローラン・クレールと祖父ジャン・デュポンから借り受けた計10haの畑からのワインを手掛けている。
レモンが「とりわけ興味深い」と語るのは、ブルゴーニュ・ショーム・デ・ペリエール。このキュヴェにはムルソーの1級畑ペリエールとジュヌヴリエールに接する、本来村名クラスの区画(ムルソー・ド・ダーヌ)のブドウが使われている。1975年に休耕地だったこの畑を購入し、植樹する際に「根を十分に張らすためには表面の土の層が浅すぎる」と考えた祖父のジャンは、他の区画の土を20cmほど足すことをINAOに申請し、許可を得た。しかし、この一件は他のムルソーの生産者の間でスキャンダルとなり、彼らの抗議によってACブルゴーニュに格下げされたという逸話を持つ。
現在も格付けはACブルゴーニュのままだが、その時植えられたブドウの樹は地中深くまで根を張って、ド・ダーヌとペリエールのテロワールの恩恵を大いに受けた実を結び、「最高のブルゴーニュ・ブラン」と誉れ高いワインを生み出している。
ボリュームとエレガントさの絶妙な調和
全てのキュヴェにおいてワイン造りの方法に差を設けず、ブドウ栽培にはリュット・レゾネを採用。収穫は区画ごとに熟度を見極めてスケジュールを決定し、熟度はもとより酸とのバランスも重要視するため、ボリュームとエレガントさの絶妙な調和がワインに与えられる。ミシェルの下から独立後、モンテリー、ムルソーと場所を移した後、2006年にムルソーと国道を挟んだ向かい側の小さな村タイィに腰を落ち着け、自らが納得のいくワイン造りを探求している。専門評価誌でもたびたび取り上げられており、『ギド・アシェット』では2007-2009年版と3年連続して掲載され、特に2007年版ではショーム・デ・ペリエール2004が「今年のギド・アシェットで扱ったブルゴーニュ・ブランの中で一番出来が良い」という高評価を受けている。しかし、レモン自身はメディアの評価をあまり気にかけておらず、そんな大らかな彼の性格が反映された美しいワインの数々が、さらに飲み手を魅了しているのである。
Meursault Le Clous
所有する他の2区画(ヴィルイユVireuils,ティエTillets)に比べて標高が高いため、より爽やかで、緊張感がある。樹齢80年以上の樹からは、結実不良のように小さな実がなり、収量は大変少ないが、常に健全で非常に質の良いものができる。繊細さで頭一つ抜きん出たムルソーであり、心地よい酸とミネラルがまっすぐ一本通ったワイン。
ヴィルイユ、ティエ、クルー、(レモンは所有していないが)ナルヴォーといったムルソー南側村名格のうち、とりわけ標高の高いこれらの畑というのは、ミネラリーな個性が出やすく、キレイな酸があって興味深い区画です。
クルーという畑は、表土が白く、砕けた石灰岩の粘土状の層が地表から30cmほどのところにあり、他とは違った個性がみられるのだ、とレモンは言います。なるほど確かにこうした南側高地の畑のワインというのは、レモンのワインはもちろんのこと、他の生産者のワインを飲んでみても興味深いものが多い印象があります。表土が浅くがゆえに心土やその下の影響を受けやすいのでしょうか、経験から様々に推論は立てられますが、体系的な研究結果がまだ出ていないのがワインの楽しみの余地ともいえましょう。
醸造学校入学の面接のため、初めてブルゴーニュに足を踏み入れた日の帰り、町の酒屋でなけなしのお金で買った当時10ユーロのレモン・デュポン=ファーンのアリゴテがなんともおいしかったこと!酸っぱいばかりのイメージのアリゴテでしたが、適度な厚みにほんのりバターのようなニュアンスがあり、アリゴテの新たなセカイを垣間見たのは今でも鮮明に覚えています。
そのときの印象があまりに鮮烈だったため、ドメーヌで研修させてほしいとレモンのもとに押しかけてしまったのはいい思い出です。研修中、その時の驚きをレモンに話すと、アリゴテについて「丁寧に造ればキレイな酸があって熟成にも耐える、過小評価されている品種なんだ」と楽しそうに語っている姿が印象的でした。
当時は今ほどの知名度もなく、ショップで簡単に買えるワインでしたが、あれから10年。気が付けば現地のショップに入荷してもひと月ふた月で売り切れてしまう人気生産者になってしまいましたが、あの日わたしがブルゴーニュのワインに魅せられて今こうしてレモンのワインの説明文を書いているだなんて、思いもしませんでした。
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